第12話 「そしてまた一緒に」










ポリン島からプロンテラにポータルで着くと、さっそくクレスに怒られた。

「馬鹿ーーーーーーー!!」

「ちょっと、クレス・・・落ち着いて」

「何でこんなに遅いの!?もう、死んじゃったんじゃないかって、
二人とも全然来ないし、私がどんな気持ちで待ってたか・・・」

「クレス・・・」

「わかってるの!?」

「ごめん、いやその色々あって」

「そうだよ〜、色々あって。でも無事だったんだから大丈夫だよ、泣かないでも」

ヤファがフォローを入れてくれるけど、クレスは止まらない。

「泣いてないの! 怒ってるんだからっ!」

「あ〜うん、とにかくさ、後でちゃんと怒られるから、他のみんなのこと教えてくれる?」

「・・・・・・うん。いいの別に無事ならそれで」

まだ憮然とした感じだったけど、リオン達やククルさんが何処に行ったのか知りたい、
ということをクレスもわかっているようで、気持ちを切り替えて話してくれた。
まず、リオンたちは折り返しポリン島へ出撃する準備をしに行ったこと、
ククルさんは弓手協会の代表として国王陛下に報告書を提出するためにリオンに付いて行ったことを聞いた。


リオンとククルさんのの騎士団への報告で、ポリン島への出撃準備がかなりの規模で行われていた。
クレスとヤファに宿の予約を頼んで、ボクは一人騎士団本部へ走って事の顛末を報告。
ぎりぎり間に合って結局ポリン島へ向かったのは情報部を中心とした数人だった、はず。
兵を動かすにはそれなりにお金が必要なので、無駄な出費はかなり抑えられたと思う。
もっともボクが財政の心配をしてもしょうがないんだけど・・・。

騎士団本部から外に出ると、用事を済ませたククルさんが待ってくれていた。

「みなさん無事でよかったです」

「えぇ、そうですね。ククルさんはこれからどうするんですか?」

「実は騎士団の費用でフェイヨン行きのポータルを出していただくことになったんです」

「そうですか、じゃあこれから大聖堂に?」

「えぇ、よかったらついて来ていただけませんか?」

「いいですよ」

というわけでそれからククルさんと一緒に大聖堂へ。
実はボクを待っていたのはそっちの目的のほうが大きかったらしい。
一人で行くにはプロンテラの大聖堂は少し怖い、と言っていた。
プロンテラに来るのは初めてだったらしいから、それもしかたないのかもしれない。
確かに、ボクたちは数え切れないくらい出入りしている場所だけど、
地方に住んでいる聖職者以外の人間には抵抗があるのかもしれない。
慣れるまではその威圧するような雰囲気に圧倒された経験があった。






そして久しぶりの大聖堂。
ククルさんは入り口からまったく言葉を発してない。
まぁその気持ちもわかるけど、身体まで強張らせているのが傍目にわかるほどで、
そこまで緊張されるとちょっと困る。
これはボクが代わりに話をしないといけないかもしれない。
本当は事務をしている修道女の誰かにお願いしようと思っていた。
あまり長居していると余計な人間に会いかねない。
そんなに気にするべきではないかもしれないけど、ボクはここへはあまり来ないようにしていた。
つまり、ボクの存在はアコライトたちにいい影響を与えるとは思えないから。

「あれ?」

事務室へ行く途中、誰かに気づかれた。
あんまり誰にも会いたくなかったのに・・・。

「もしかして、リルじゃない? あ、やっぱりそうだ。どうしたのよこんなところで」

振り返るとちょうどボクと同じか少し高い背のプリーストが近付いてきた。
修道女のヴェールが似合っているけど、性格を知っているボクから見れば合ってない。
なんていうことを言葉にしたら命はない、そんな相手だった。
フォローするなら、サファイアのような瞳が嘘みたいに綺麗だった。

「あぁ、ノエル。ちょうどよかった」

唯一といったら言い過ぎだけど、会ってもいい相手だった。
いや、そんなものではない。クレスよりも、リオンよりも、長く一緒に過ごした仲間だった。

「何か用事でもあるのかしら?」

ボクだけではないからノエルは3割増しくらいの上品な口調だった。
もちろん、もともと崩れた口調のほうが少ない。

「あ、あの、わ、私が用事あるんです」

緊張しすぎなククルさんがなんとか用事がある旨を伝えた。
とりあえずフェイヨンに帰ることと、騎士団の経費でブルージェムストーン代は支払われること、
その二つはぎりぎり伝わったと思う。
もっともその二つが伝わればいいんだけど。

それにしても、ノエルを前にした人は大概こんな風になるのはなんでだろう。
いや、理由はわかる。

「ノエル、そのヴェールはどうしたの?」

「私ね今は教育係なんてやってるのよ。だから仕事中はこれ着けてないといけないのよね」

「教育係? ノエルが?」

なんて、以外でもなんでもなかったけど。
そもそも、いつか教える側に立ちたい、立つんだと言っていたことは覚えてる。
ただボクがその時まで一緒にいなかっただけだ。

「あら、これでも結構人気あるのよ?」

そう言いながら、着けてないといけない言ったばかりのヴェールを脱いだ。
すると、瞳と同じサファイアのロングヘアーが輝きながら姿を現した。
本当にサファイアを砕いて髪を編んだかのように光を反射する。
室内ですらこんな風に輝く髪は、月明かりの下ではそれだけで魔法のようなのだ。

ククルさんを横目で見ると、案の定、口を開けて見とれている。
教育係としての人気はその容姿も要因の一つなんだろう。
まぁでも年下相手には結構優しいところもあるから、わからないでもないかな。
これも違う。ノエルは誰よりも適任だ。

「ブルージェムストーンを取ってくるから、そうね、私の部屋行ってて。場所変わってないから」

「うん。けど変わってないの? どうして?」

「荷物移動するの大変でしょう? お願いしてそのまま使わせてもらってるのよ」

「なるほど」

それに、他の部屋に移るよりもあの部屋のほうがいいだろう。

「じゃあ、すぐ行くから」

そう言って事務室のほうへ歩いていった。
ククルさんは相変わらずノエルに釘付けだった。

「行きましょうか」

「あ、え? あ、そうですね、行きましょう」

名残惜しそうなククルさんを連れて、未だ変わっていないというノエルの部屋へ向かった。
途中何人かのアコライトとすれ違った。
これから食事なのかもしれない。






扉にはちゃんとネームプレートがかかっていた。
ノエルはいないとわかっていたけど、一応ノックをして入る。

「あの、勝手に入ってしまっていいんでしょうか?」

「えぇ、良いって言ってましたから。そんなところにいないで入ってきてください」

ククルさんは遠慮しながらも部屋に入り、
初めて檻から出してもらった小動物のように部屋の中を見回していた。
ボクは窓の近くにある椅子に座った。
この椅子から見たノエルの部屋の様子は昔とあまり変わらない。
ボクはいつもこの椅子に座って、ノエルはベッドの上に寝そべって。
他に人が居るときは部屋の真ん中にあるテーブルに座ることもあったけど。
でも、ほとんどいつもこの椅子に座っていた。本当に、懐かしい。

「ククルさんも座ったほうがいいですよ」

「あ、でもすぐ来るって・・・」

「ノエルの『すぐ』は本当にすぐだったり、30分くらいだったりしますから」

「はぁ、そうなんですか」

おそるおそる、といった感じで床のクッションに腰を下ろす。
今日のククルさんはなんだか見てて面白いというか、幼くなった気がする。
相変わらず部屋のあちこちに視線を飛ばしていた。

「そういえば、リルさんのお知り合いだったんですね」

「えぇ、ノエルとは同期なんですよ」

「ノエルさんっていうんですね。あんなに綺麗な人間がいるなんて、初めて知りました」

「それは言い過ぎだと思いますけど」

ノエルだって、普通の人間だ。もちろん、綺麗なのは認めるけど。

「そんなことないです、びっくりしました! 私も髪だけは自信あったんですけど、もうなんていうか
宝石を散りばめたみたいなあんな綺麗な髪とか、それに眼もすっごい綺麗で、私自信なくしちゃいました・・・。
スタイルもいいし、どうしたらあんな風になれるんでしょう・・・」

そこまで絶賛されると否定のしようがないというか、
うかつなことを言うと大変なことになりそうだ。

「それに、服もたくさんありますし、綺麗な人はやっぱり服装にも気を遣っているんですね。
私なんか、同じような服しか持ってないです。それに実用性でしか選んでないです・・・」

確かに、部屋には聖衣の代え以外にも服が沢山あった。
ほとんど着る機会なんてないとは思うけど、確かにたまに見る私服はいつも違うものだった。
少なくともノエル以外にこんなに沢山服を持っているのは貴族のお嬢様くらいだろう。

「羨ましいです、リルさん親しそうでしたし、部屋に勝手に入るくらい仲良いんですね。
その椅子に座るのも、なんかいつもそうしてる感じがしました」

「勝手っていうこともないんですけど、まぁ仲悪くはないですよ。それにいつもこの椅子です」

「あの、もしかして・・・」

「はい?」

「あ、いえ、なんでもないです」

何か言いにくいことだったのか、それっきりククルさんは黙り込んでしまった。
ボクも疲れていたので窓辺にもたれて外を眺めていた。
ときどき外を通りかかるアコライトたちを見ていると昔を思い出す。
懐かしさは、抗いようがなく心に染みてくる。
抗う必要なんて、本当はないのに・・・。それでも・・・。

今は1人じゃないことを思い出して、思考を止め、また別のことを思い出した。

「あぁ、そういえば」

「はい?」

「リオンもノエルとは仲いいですよ」

「リオンが?」

意外そうな顔をしていた。
どうしてかは分からない。

「昔は三人で一緒に出かけたりしてました」

「そう、なんですか」

三人プロンテラに集まるのも久しぶりだ。
もっともいないのはいつもボクだったけど。







それから10分ほどして帰ってきたノエルにポータルを出してもらったククルさんは、
「また来てもいいですか?」とノエルに聞いて、笑顔で帰っていった。
返事はもちろんYESだった。
ノエルの仕事が休みだったら今日一日くらいは留まって居たかったんだろう。
次に会えるのはいつになるかわからないだろうし。

「久しぶりだし、時間あるんだったら部屋で待っててよ」

この前プロンテラに来たときは、会えなかったから。もしかしたら半年振りくらいかもしれない。

「う〜ん、実はさっき戦闘してきたばっかりで疲れてるんだよね」

「ベッド使ってもいいわよ? それとも忙しい?」

布団を軽く叩きながらボクに問い掛ける。
それはとても魅力的な提案だった。実はかなり眠い。でも・・・。

「連れがいるから。ネンカラスに部屋取りに行ってもらってるし」

「そういえば魔術師の女の子と一緒、って聞いた気がする。あのときの娘? ちゃんと話したことないわ」

誰から聞いたんだろう。ボクが自分で言ったかな。よく覚えてない。

「うん、紹介するよ」

ついつい勘違いしてしまうことがある。
ボクが2人をよく知っていると、その2人同士もよく知った仲だと。
もっと早く紹介しておくべきだったかな。
その機会はあったのに。

「ネンカラスだったら、そうね、明日の夜はどう?」

ノエルの部屋だったら、今日でもかまわなかったのかもしれない。
仕事が終わってからでもここなら確かに会いやすい。
まだ日は高いから、今からネンカラスで寝ても夜には起きられるだろうけど。
いや、ノエルもよく分かってるから・・・ボクの睡魔に対する弱さを。

「いいよ、リオンも仕事なかったら来るだろうし」

今日の出撃が中止になって、しかもフェイヨンから戻ったばかりだから、明日はきっと休みだろう。

「あぁ、帰ってきてるのね。もしかして一緒だったの?」

「うん、偶然。その話も明日するよ」

「えぇ、それじゃあいつもどおりの時間で」

いつも通りっていう言葉はなんだかおかしい気もしたけど、それでもボクに通じたのだからいいんだろう。
夜に会うときの時間はいつも同じ時間だった。だから通じた。

「わかった。それじゃあそろそろ行かなくちゃ。リオンにはボクが言っておくよ、一応」

「そうね、別にリオンは来なくてもいいけど、可哀想だし呼んであげましょうか」

ノエルのリオンに対する態度、言動は本人が聞いてると泣きそうなものが多い。
まぁ本人がいてもいなくてもその扱いは変わらないからリオンはいつも嘆いてるんだけど。

「じゃあね、また明日」

「うん、また明日」

明日、という言葉でノエルと別れたのはいつ以来だろう。









宿屋ネンカラス。
プロンテラの西側に位置するこの宿屋は別館を持つほどに規模が大きい。別館は東側にある。
しかもそれぞれが他の宿の二倍から三倍ほどの大きさで、
プロンテラに来たことのある冒険者なら誰でも知っている。
部屋によって宿泊料は違うけど、質の割には安いことでも有名だった。

本館の一階、午前中だからなのか人の出入りはまったくと言っていいほどなく、
受け付けの前で待っていた二人をすぐに見つけることができた。

「おかえりっ」

「遅いよ、何処行ってたの?」

再びご立腹のクレスに説明して、かなり眠かったのですぐに部屋に向かった。
運良く二部屋取れたのでボクは二人が昼食を食べなくてもいいことを確認して、
驚くほど柔らかいベッドで一人眠らせてもらうことにした。
ヤファはともかく、クレスも眠いはずなので今日は夕食だけでいいだろう。
寝れば機嫌も良くなるだろうし・・・。












−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 












リルが部屋で寝ている間、私はヤファに今日のことを全部聞いた。
つまり、私がポータルに入ってから何があったのか。
話を聞いているうちに、だんだん自分がどうして怒っていたのだろう、
どうして怒れたんだろうって、そう思ってしまった。

私に怒る資格なんてなかった。
そんな大変なことになってるのに一緒に居なかった私には、
たとえ一緒にいてもきっと足手まといにしかならなかった私には、
そんなものなかったんだ。

「ごめんね。私もう寝るね」

そう言って私はベッドに横になった。

「わたしも寝よ〜っと」

となりのベッドにヤファも飛び込む。
こんなに良いベッドで眠るのは初めてなのかもしれない。
いつのまにか静かな寝息が聞こえてきていた。

目を閉じて、広がる暗闇の中で考える。
例えば私とヤファが入れ替わっていたら。
例えばその謎のウィザードと同じことが私にもできなのなら。

結局、答えは最初からわかってた。
考えるまでもなかった。


今の私は、私の弱さは、いつかリルを見殺しにする・・・













−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 














目が覚めると、カーテンを閉め忘れた窓から陽の光が射し込んでいた。
どうやら思ったより寝てないらしい。
その割には随分回復していたので、良いベッドはやっぱり良いベッドだと思った。
だけど・・・


「あれ?」

窓から外を眺めると眠ったときより低い太陽が見えた。
しかも方角は東で、まるで早朝のような・・・。

「・・・・・・うそ」

部屋を出て隣のクレスとヤファの部屋へ。
ノックをすると間もなく「どうぞー」というヤファの返事が聞こえた。

「今日って何日!?」

クレスもヤファも起きていて、すぐに答えてくれた。
なるほど、やっぱりボクはまる一日寝ていたようだ。
どうして起こしてくれなかったのか聞こうと思ったけど、
どうせ起こしても起きなかったんだろうと自己解決した。
ボクは基本的に寝起きが悪くて野宿じゃないかぎりなかなか起きないから・・・。

「ねぇ、リル。話があるの」

「だったら朝食食べながらにしようよ。さすがにお腹空いて・・・」

「これ、買ってきたから。食べながらでもいいから聞いて」

「え? そうなんだ。ならいいかな」

クレスからミルクとパンを受け取ってベッドを椅子代わりに座った。
食べながらでいいって言ったけど、なんとなく食べながら聞くような話じゃない気がする。
少なくともクレスの表情は真剣だった。

「あのね、昨日一日中色々考えてたの。ううん、考えてたのはリルが眠ってちょっとだけかな。
でね、やっぱり私一人でゲフェンに行ってこようって。ヤファがいるから攻撃面は平気でしょ?
レイチェルさんのことは、最後まで一緒にがんばってあげられないけど、でも・・・」

「ちょ、ちょっと待って。ゲフェンに行ってどうするの? しかもどうしてこんなにいきなり・・・」

「そうだよ〜、わたしまだクレスと一緒に旅したいよ」

「いきなりかもしれないけど、でももう分かっちゃったから。このまま一緒に行けないよ。
だって今のままじゃ、私は役に立てない。今までは大丈夫だったかもしれないけど、これか
らはだめかもしれない。ううん、実際もう一回だめだった」

クレスはまっすぐにボクとヤファを見て話している。

「昨日、いや一昨日か。でもあんな大規模な戦闘これから先・・・」

「ないって言える? あるかもしれないでしょ? そんなときになって、また見てるだけ、待ってるだけ、
そんなの私耐えられないよ。私の性格知ってるでしょ? それにもう決めたの」

きっともう悩んだりする段階は超えてるんだろう。
クレスの眼には迷いなんて微塵も感じられなかった。
いつだって一度決めたことは命をかけてやり通してきた。
クレスとの付き合いは短くない、説得は無駄か・・・。

「そっか、もう決めたんだね」

「うん、決めた」

「ゲフェンに行くのは今の状況じゃ難しいのも分かってるよね?」

今ルーンミッドガルド人がゲフェンに入るにはそれなりの労力が必要だ。
正規に入るにしても、忍び込むのにしても。

「あは、何言ってるの。ゲフェンは私達の街なんだから。魔術師にとって敵国の門番なんて
いないのも同じ。ま、出るのはちょっと大変かもしれないけどね」

クレスは笑っていた。
そうだ、クレスの出した答えなら間違ってるわけない。
いつだってそうだったし、これからもきっとそうだろう。

「わかったよ。ほんのしばらくの別れだね」

「うん、あっという間にマスターして世紀の大魔術師になって帰ってくるから」

「期待してるよ」

「だから、ヤファ。リルのことしばらくお願いね」

「うーん・・・うん、わかったっ。まーかせて」

「あ、そうそう。リルが寝てる間にリオンさんに会ってきて、頼んでおいたから」

「何を?」

「何を〜?」

「レイチェルさんのこと。今回の活躍のお礼に牢屋のカギを渡せーって」

「なるほど、それはいい考えだね」

「ま、私って冴えてるから」


そのときこの部屋には暖かな笑顔と笑い声だけがあった。
今までずっといっしょに旅をしてきた仲間だけど、それでも別れは来る。
だけど、ボクもクレスもヤファも、また一緒に旅をするときが来ることを分かっていた。
だから寂しさとか悲しさとかそういうのは必要なかったんだ。

朝ご飯を終えると、クレスはすぐにプロンテラを発った。
ボクとヤファは宿の入り口で彼女を見送った。
まるでちょっと買い物にでも出かけるような「いってきます」、
それを「いってらっしゃい」で送り出した。
きっと「おかえり」に繋がると、そう思うから。







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