第2話 『迷いの森なら迷ってもいいよね・・・』 「迷った・・・」 ゲフェンからプロンテラにいくのはすごい簡単。 ゲフェンの町が浮かぶ湖に沿って南東へ進むだけ。 だったらまっすぐ東に進んで、プロンテラの北あたりになったら南下すればいいと思って、 実行してしまったのが運の尽き。 途中でホルンとかコーコーとかを狩っているノービスたちを微笑ましく見守りながら、 地図を見ないで適当に歩いてたのがまずかったのかも。 そういえば前にプロンテラからフェイヨンに行こうとしてたのに、 いつのまにか港町に着いてたことがあったっけ。 いつもは気ままな旅だからよかったけど、今回はちょっと違う。 預かった手紙を渡さなきゃいけないんだから。 「でも、プロンテラに近づいてはいるはずなんだけどなぁ」 旅立ってからちょうど二日。 今日も太陽は私の真上でギラギラしていた。 それもさっきまでの話で、今は鬱蒼と茂った木々に守られている。 涼しいのはいいんだけど、ここがどこなのかさっぱりわからないし、どうしよう・・・ どっかに道しるべでもないかと思ってあたりを見回しながら歩いていると、 不意に坂の上あたりから物音がした。そして現れた赤くて大きな芋虫。 「さっきは蛇、その前はビッグフット、次はアルギオペっていうわけね」 まったく、どうしてこう一定してないのか。 とりあえずアルギオペの毒には注意しないと。 毒消しの効果のある緑色のハーブやらポットが今はないから、 もっともそこらへん探せば緑のハーブくらい生えてそうだけど。 「さてと」 持っていた剣のうち一振りを鞘から抜いて構えた。 こっちの剣はもうひとつのほうより大きい。 大きい敵には切る刀より打撃を与える剣のほうがいい。 個人的には刀のほうがずっと好きだったりする。 坂の上のアルギオペはこちらが見えているのかいないのか、 あたりを探るかのように、たぶん頭の方をしきりに動かしていた。 そして急にその動きを止めたかと思うと、虫とは思えない速さで坂を下ってきた。 「うわっ、足が気持ち悪い・・・」 たくさんある足がすごいスピードで動いている。 正直目隠しが欲しい感じ。 まぁそれじゃ戦えないけど。 さて、これは楽な戦いになるかも。 だって地面を這って向かってくるなら、 障害物を作ってあげれば勝手にぶつかるだろうし。 「せいっ!」 掛け声とともに私は剣をタイミングよく地面に突き刺した。 その剣にアルギオペが勝手にぶつかるように。 赤い巨体は一人で勝手に地面に刺さった剣にすごい勢いでぶつかった。 衝撃は剣が折れるかと思うくらいだったけど、アルギオペはすぐに動き出そうとしていた。 さすがにそんなにヤワじゃないみたい。 でも、そんな隙を見逃すわけもなく、刺さった剣の柄を両手で持って、 そのままアルギオペを両断した。 剣がその巨体を走ると、毒の体液が溢れ出す。 その体液が体に触れると、毒に冒される。 ていうか、気持ち悪いから触れたくない。 私は剣から手を離して、同時にもうひとつの武器を手に取った。 そしてそれを同じように、今度は赤い巨体の中心に突き刺した。 「マグナムブレイクっ!!」 半分になった赤い巨体が、炎の衝撃波で吹き飛ぶ。 毒の体液はその炎で焼かれて私に触れることはなかった。 「ふぅ、完璧」 武器をおさめて大きく息を吐いた。 この流れるような戦い。我ながら最高っ!自画自賛ばんざいっ! それにしても、ゲフェンタワーで借りてきた刀、結構いい刀みたい。 もしかしたら最初から弱ってたのかもしれないけど、ずいぶん楽だった。 まぁ私の実力からしても、毒にさえ気をつければ楽な相手だけどね。 それにしても、ここは何処なんだろう。 確か、アルギオペはプロンテラから北側にしか生息してないはずだから、 ここから南に向かえばたぶんプロンテラに着く、はず。 でも南に行きたいのは山々なんだけど、 東西にしか道がなかったりする。 しかも雲行きも怪しくなってきてるみたい。 さっきまで木々の間に見えていた青も灰色に変わってしまった。 「一雨来るかな。また蒸し暑くなっちゃう」 冬に雨に降られるよりはずいぶんましだけど、 やっぱり夏でも濡れたくないし、 雨宿りできるところを見つけたほうがいいかな。 でもここなら木の葉が傘になってくれるかも。 やがて予想通り雨が降り始めた。 私は路傍の大きな木を屋根にすることにした。 たぶんすぐ止むとは思う。 この時期の強い雨は長く続かないはず。 それにしても、今日は誰にも会ってないな。 心なしかモンスターも大人しい気もするし。 今日は世界的にお休みなのかな。 たぶん日曜日ではなかったと思うけど・・・ 「あ〜も〜、早く止んでくれないかな〜」 止んでもこれだけ強い雨だと服も汚れちゃうし、 転んだらもっと最悪の姿になりそうだし、 できれば地面が乾くまでここにいたいけど、 どこかわからないような場所にずっといるのも嫌だし。 それから1時間ほどしてようやく雨脚も穏やかになり、 空もすこしずつ明るくなってきた。 さて、とりあえず歩いてれば野宿できそうな場所もあるだろうし そろそろ出発しようかな。 雨が降ってモンスターたちも巣に戻ってるだろうし。 そろそろ今日の宿を本気で見つけないとまずいと思っていた頃。 今までの鬱蒼と茂った森とはうって変わって、ずいぶんと広い野原に出た。 ラッキー、適当に歩いてたら森から出られたみたい。 野原を進むと、橋が見えた。 その橋のところに二人、プロンテラの警備兵の格好をした人が立ってる。 一瞬プロンテラに着いたのかと思ったけど、お城も見えないし、 砦もなかったし、それにこんな近くに森はなかったはず。 「あの〜、ここってプロンテラ、じゃないですよね?」 「ここは迷いの森ですよ。わかっていらっしゃると思いますが」 兵士の一人が教えてくれた。 なるほど、迷いの森ね・・・って、 「ウソ・・・迷いの森って、あの?」 「・・・知らずにここまでいらしたんですか?」 もう一人の人が変な表情をしている。 たぶん、呆れられてる。 「あはは、迷っちゃって」 ちょっと恥ずかしいけど、迷いの森なら迷ってもしょうがないよね、うん。 ゲフェンからプロンテラに向かってて迷いの森に入るとは自分でも予想外だったけど、 でも、居場所がわかったからよしとしよう。 一応プロンテラには近づいてたんだから結果オーライ。 「えっと、それでここからプロンテラへはどう行ったらいいんでしょう?」 「貴方が来た道を戻っていけば着くはずなんですが・・・」 「ありゃ・・・そうなんですか」 なるほど、まったく反対方向に進んでいたらしい。 「もうすぐ日も暮れます。今日はここで泊まっていったほうがよろしいかと思います。 実は我々は明日の朝にプロンテラに戻るんです。ここでの勤務は今日で終わりなので。 それで、よろしければプロンテラまでお送りしますが、どうでしょう」 「ほんとですか!?お願いします、ぜひぜひ。正直辿り着ける自信なくて・・・あはは」 「では、今日はここにお泊まりください。迷いの森の中では一番安全な場所です」 やった!こういうのなんて言ったかな。棚から牡丹餅?ちょっと違う? 渡りに船だっけ?これおとといも使ったな。 どっちでもいいけど、ほんとラッキー。 私は兵士さんの言葉に甘えて一晩泊めてもらうことにした。 といっても宿があるわけでも家があるわけでもなくて、 一応雨風はしのげるかなっていうくらいの小さな小屋。 でも贅沢は言ってらんないもんね。 雨が降った後だと外で寝るのってすっごい辛いから。 私は遠慮したんだけど、兵士の二人は夜ご飯まで作ってくれた。 なんでも帰りの荷物は少なくしたいから明日の朝の分を残して全部食べてしまいたい、って。 そんなわけで私の持ってた食料をちょっと足して、少し豪華な食事になった。 そして深夜。 外で見張りをしてくれている二人に温かいスープを作ってあげた。 暑いからって冷たいものばかり飲んでいると体によくないし、 それに冷やす氷もなかったので、熱い代わりに栄養たっぷりのスープ。 実は私、料理には結構自信があったりする。 基本的には一人旅なので、いつのまにか上達していた。 いつでもお嫁にいけるわっ! なんて、そんなの想像もつかないけど・・・ 「それじゃあ、もしモンスターが現れたら起こしてくださいね。これでも結構強いんですよ、私」 見張り役の交代も却下されたので、そう言って眠らせてもらうことにした。 女っていう理由で庇護されてる、っていうわけでもなさそうだったので、 素直に好意に甘えることにした。 会ったばかりだけど、優しそうな人たちだったから。 こういうときは遠慮するほうがかえって悪かったりする。 やっぱり人間助け合いだもんね。 明日はやっとプロンテラ。 予定より1日遅くなっちゃったけど、 別に急ぐわけでもないからいいかな。 それじゃあ、おやすみなさい。 明日もいい天気になりますように・・・ 第3話へ |