side Mana 〜The morning of a prayer〜







「吹雪収まってきましたね」

女将さんが窓の外を見ながらそう言った。
結局日付が変わっても吹雪は収まらなかった。
わたしたちは食堂に女将さんもおっちゃんも含めて5人で集まっていた。
時計の針はちょうと5時をさしている。

「じゃな。夜明けまで後2時間弱くらいじゃな。探しにいくかい?」

「はい、行きましょう」

女将さんの言葉に反応して窓のところまでいって外を見た後、そう答えた。
こんなに長く待っているだけだったのは、とても辛かった。

「リオン!行くわよ、用意しなさい」

コタツに入って眠っていたリオンさんを、姉さんが文字通りたたき起こした。

「ほえ?…あぁわかった」

リオンさんはよく眠っていたみたい。わたしもおっちゃんに、寝ておいたほうがええ、
と言われていたけど、とても眠れそうになかった。

「あんたずいぶんぐっすり寝てたわね」

「体力つけておかないとな」

「……確かに…そうね」

確かにわたしたちが疲れていたらリルさんを探すどころじゃない。
リオンさんはそう判断したのだと思う。
わたしと同じくらい心配だったはずなのに、リオンさんはちゃんとやるべきことができる人なんだ。
失礼だけど、すこし見直してしまった。

みんな用意ができたところで、わたしは忘れ物をしていることに気がついた。

「あ、ちょっと待ってください」

「どうしたの?」

姉さんの言葉に、先に玄関で待っていてください、とだけ答えて、部屋に戻ってマフラーを持ってきた。
とても暖かいサスカッチの毛で作られたマフラー。
それを懐に閉まって玄関へ向かった。

「さぁ行きましょう」

姉さんの声にも頷いて、玄関の扉を開けた。
外はまだ暗かったけど、さっきまでの吹雪が嘘みたいに止んでいた。

「ほなら、とりあえず山の方に行ってみるべ」

おっちゃんはわたしたちの倍くらいの荷物と暖かそうな装備だった。
上着は毛皮で作ってあるので本当に熊みたいに見えた。
遭難者のためのいろいろな道具も持っているみたい。たぶん毛布とかだと思う。




先頭はおっちゃん、そのあとをリオンさん、姉さん、わたしという順番で歩いた。
向かうのは森の奥の山のほう。おっちゃんの話では、遭難したときのために、
いくつかある洞窟にマッチや薪などを置いておいたり、洞窟自体を作ったりしてあるらしい。
もし、あんまりこういう風にはいいたくないけど、リルさんが無事なら、
きっと洞窟の中に避難しているかもしれない、そういうことなんだと思う。

宿で待っているあいだ、何回も姉さんに言われた言葉。
大丈夫、きっと大丈夫。
そのおかげかも知れないけど、わたしはリルさんが無事でいると確信していた。


歩き始めて一時間ほどした頃、少しずつ東の空が白み始めてきていることに気づいた。
道はだんだんと急になり始め、周りの木々もその数を増してきていた。

「この森を抜けた先にいくつか洞窟がある。そのどれかに避難しているじゃろう」

今はわたしの一つ前を歩くおっちゃんの言葉に無言で頷いた。
先頭は疲れるのでリオンさんとおっちゃんが交代で歩いていた。

「あれ?」

先頭を行くリオンさんが何かに気づいたみたい。
わたしはその視線のさきにリルさんの姿を探した。

「どうしたのよ」

一番後ろを歩いている姉さんが訊く。

「いや、さっきからちょっと気になってたんだけど、やっぱ間違いないかもな」

「だから何がって言ってんのよ!」

「木の下だからギリギリ消えなかったのかもな、足跡」

リオンさんは一歩横にずれると笑顔で振り返ってそう言った。
これからわたしたちが向かう先へとうっすら人間の足跡が続いていた。
それを見てみんな笑顔になる。きっとこれはリルさんの足跡。
そしてそれは洞窟のあるという方向に続いている。

「おっちゃん、洞窟までどのくらいだ?」

「そうじゃな、朝日が昇る頃には着くじゃろう」

「急ぐわよ」

「おう」

雪の中を歩いてきた疲れもあったはずなのに、足取りが軽くなった気がした。
少しずつ明るくなっていく空のように、少しずつ気持ちも明るくなっていく。

わたしはリルさんを見つけたときのことを考えていた。
いなくなっちゃったこと、少し怒ってみようかな。
心配したんですよ、って。

ううん、無事ならもう何でもいい。
早く元気な姿が見たい。

朝日が出る頃には会える。
だから早く朝になって欲しい。










続く