灰色の目覚め














朝が来た。
ボクは視線だけで窓の外を見た。
今日も相変わらず灰色の空からは雪が落ちてきていた。
だけど昨日よりも明るい。そのうち止むかもしれない。

それにしても身体が熱い。布団があったかいなんていうレベルじゃない。これは…

「風邪ひいたかも」

そう声に出してみたら、その息が少し暖かかった。
布団に入ったまま身体を横にしてリオンの様子を窺う。まったく乱れていない布団が少し上下している。
目は閉じられたままで、まだ眠っているようだった。

「まだ寝てるか。どうしようかな」

とりあえずリオンが起きるまでこのまま寝てることにした。
リオンには朝の7時に絶対に起きるという習性がある。
朝食は8時かららしいのでちょうどいいだろう、そう思ってまた目を閉じた。

だけどなかなか眠気は訪れず、目を閉じたままいろいろと考え事をしていた。
しばらくして横で物音が聞こえた。リオンが起きたみたいだ

「おはようリオン」

「よぉ起きてたのか、めずらしいな」

リオンとは対照的にボクは朝に弱い。というより起こされるまで基本的に起きられない。
もしかしたらリオンより先に起きたのは初めてかもしれない。
今日はたぶん具合が悪いから起きたんだろう。逆だったらいいのに。

「なんか風邪ひいたみたいなんだよね」

「ほんとかよ、熱あるのか?」

少しだけ心配そうな顔をして聞いてきた。ほんのすこしだけだけど。

「ちょっとあるみたい。セキはでないけど」

「ふむ、風邪はどうしようもないからな…」

そういって寝癖のついた頭を掻く。

「風邪だけは治せないね。どんな魔術でも」

「そうだなぁ、よし、女将さんに言ってなんか別のもの作ってもらうか」

「悪いね」

「お前でも風邪ひいたりするんだな」

リオンが笑いながら言う。

「リオンには言われたくないけどね」

「どういう意味だよ」

リオンはちょっと不機嫌な顔をしてみせたあと、

「じゃあちょっと頼んでくる」

そう言って部屋から出て行った。
それにしてもまさか本当に風邪をひくなんて、運が悪いかなんというか。
とにかく他の3人に申し訳ない。










しばらくしてリオンが帰ってきた。手には桶とタオルを持っている。

「朝飯部屋に持ってきてもらうように頼んできた」

枕元へ座るって桶に入った水でタオルを濡らしながら言った。

「ありがと」

ボクは横になったまま視線と言葉で礼を言った。

「気にすんな。それより薬がないのが痛いな」

「そんなに酷いわけじゃないから大丈夫だよ」

強がりじゃなくてただ熱があるだけだったから医者も薬も必要ないと思う。

「じゃあ飯まで寝てろ。来たら起こすから」

「ん、よろしく」

すぐには眠れそうになかったけど、目を閉じてるだけでも楽になるから、ご飯が届くまで休むことにした。


それから40分ほどして、女将さんがいかにも病人食といった感じのものを持ってきてくれた。
床に置かれたお盆の上にはおかゆと水と何かとても辛そうなものが載っていた。

「お待たせしました〜。これを食べて眠ってればすぐに治りますよ〜」

「ありがとうございます。ところでこの赤いのは?」

ボクは身体を起こしてお礼を言うと、気になった赤い野菜らしきものが何なのか聞いてみた。
赤い野菜ではなくて何かで赤くなった野菜。唐辛子かもしれない。

「あぁこれはキムチといって、ちょっと辛いんですけど、美味しいですよ〜」

「きむち?あぁこれが…」

「えぇ、辛いものを食べていっぱい汗だすとすぐ治っちゃいますから」

女将さんは自信満々といった感じの笑顔で小さくガッツポーズをした。

「どれどれ」

リオンはどんな味か気になったのかそのキムチを一切れつまんで口にいれた

「ふむふむ、結構うまいか……か、か、か…」

「か?」

「辛れぇぇぇ!」

「そんなに?」

リオンは黙ったままコップの水を飲みながらうんうんと頷いた。
そういえばリオンってあんまり辛いもの食べられなかったんじゃ…

「辛いの苦手なの忘れてた」

空になったコップをお盆の上に置いて少し泣きそうな声で呟いた。

「忘れるかなそういうこと…」

「あぁ汗かいた…確かになんとなく風邪にはよさそうだな…」

「じゃあいただきます」

額に手をあてているリオンを横目に、ボクは女将さんからお盆を受け取ると、布団の上に置いて食べ始めた。
病人食っぽいわりにはかなり美味しかった。
熱であんまり舌が働かないのか、それとももともと辛いものは好きだからなのか、
キムチの辛さはちょうど良く、一気に全部平らげてしまった。

「ごちそうさまでした」

ボクが食べ終わるまで待ってくれていたようで、女将さんは食べ終わった食器を持つと、
おそまつさまでした、といって立ち上がってリオンのほうに向いた。

「それでは、朝食の用意はもうできてますので、昨日と同じ部屋へいらしてくださいまし」

そう言って部屋から出て行った。

「じゃあ俺らも飯食ってくる」

「うん、ノエルとマナちゃんによろしく言っといて。そんな酷い風邪じゃないからって」

「あいよ、おとなしく寝てろよ」

「了解」

ボクの答えを聞いてリオンも出て行った。お腹が膨れたらまた眠くくなったので、リオンたちが帰ってくるまで寝ることにした。















続く