side Noel 〜first night〜











温泉から上がって部屋に戻ってきたらすぐにマナはこたつで眠ってしまった。
風邪を引いてもいけないので、私はマナを起こさないように布団に運んだ。
小さな頃と違って一人では少し大変だった。

さすがに今日はきつかったかもしれない。
まったく、リオンももう少ししっかりしてくれたらいいのに。
たまに仕事で会うときはもっとしっかりしてるのに、どうして普段は頼りないのかしら。困ったものね…
コタツで温まりながらそんなことをぼんやり考えていたら、ノックの音がしてリオンが入ってきた。
両手でちいさなみかんを抱えていた。どうやってノックをしたのか気になる。

「よお、なんだマナちゃんは寝ちまったのか」

そう言いながら手に持っていたみかんをコタツの上に置くと、寒い寒いと言いながら私の向かいに座った。

「疲れたのよ。なんだかんだでまだ18だもの。若いときに体力と気力があるのは男だけよ」

「そうだな、まぁリルも寝ちまったが」

「やっぱり調子悪かったのね。着いたときより顔色悪かったもの」

食事のときのリルは少し元気がないように見えた。
表面上はいつもどおりだったけれど、私には一目瞭然。
だけど気を使われるのは嫌だろうから何も言わなかった。
自分は人に気を使ってばっかりなのに、自分が気を使われるのは嫌という性格。
それがいいところでもあり、悪いところでもある。
たまには頼ってくれたほうが嬉しいってことを、リルはわかっていない。

「さすがに分かったか」

「伊達に教会で教育係なんてやってないわ。付き合いも長いしね」

「まぁ平気だろう、それよりお前は疲れてないのか?」

「いいえ、あんたこそどうなのよ?」

「まぁ俺も伊達に騎士団の副隊長なんてやってないってことだ」

そう言って少し笑った後、急にまじめな顔になった。
リオンと話をするときは思考の切り替えが早くないとついていけない。
たぶんこれからまじめな話でもするのだろう。

「あいつこれからどうするんだろうな」

「リルのこと?そんなことわかりきってるじゃない」

「あぁ、分かりきってる。だからこそやめさせたい」

リオンの言っているのはリルの姉さん探しのこと。もう王国の隅々まで探したといっていた。
そうなるともうシュバルツバルド共和国かアルナペルツ教国しかない。
でも今はシュバルツバルド共和国には行けないし、アルナペルツ教国にいたってはほとんど冷戦状態。
今は平和に見えるけれど、私の予想ではもうすぐこの平和も終わってしまう。

つまりリオンが言っているのは、大切な物のためには国すら捨てかねないリルを、
何とか王国に留めておきたいということ。でも…

「リルには何を言っても無駄だってあんたもわかってるんでしょ?」

「あぁ、だから直接は言ってないけどな」

「どうする気なの?」

「たぶんリルも半分は諦めてると思うんだ」

「…そうね」

そう、リルもたぶん半分は見つからないことを覚悟している。

「でもあの指輪、もう形見みたいな指輪が邪魔してる」

「でも外せるかしら?精神的にだけど」

「きっかけ一つでなんとかなるんじゃないかって思ってるんだけどな」

「きっかけね、簡単なようで難しいわね」

リオンは、あぁ難しいな、といって腕を組んだ。
冷静なようで、大切な物のことに関しては盲目的になってしまう傾向のあるリルには、
私やリオンが何を言っても無駄なのかもしれない。

「旅行に来てまでこんな話して悪かったな」

リオンは立ち上がってそう言った。

「半分くらいはそのためだったんでしょ?」

「かもな」

「いいわ、私も少し気になってたし、それに……」

「それに?」

「従者の悩みを聞いてあげるのも主人の役目でしょ?」

「いつから従者になったんだよ…」

「いいじゃない、私の従者なのよ?」

「はいはい、じゃあおやすみな」

「おやすみなさい」

リオンは音を立てないようにして部屋から出て行った。
物音くらいじゃマナは起きないのだけれど…



コタツの火を消してから布団に入った。
隣ではマナが気持ちよさそうにこっちを向いて眠っている。
この子が、マナがきっかけになってくれたらいいのに…

私はそっとため息をつく。
私があれこれ考えても仕方ないこと。すぐに思考を切り替える。
今日は疲れたし寝ることによう。
私は目を閉じて、静かに祈りを捧げた。
どうか、あしたは晴れますように、と。

















続く