前略

親愛なるお母様、御加減いかがでしょうか。

私がこの村に住むようになって3年ほど経ちますが、

毎日忙しなくここで生きてきて、忘れていたことを少しだけ、

本当に少しだけですが思い出すことができました。

とても穏やかな陽射しと風の日、川の流れを眺めていると、

いつのまにか西の森の木に刺さるように太陽があって、

お使いの途中だったのでしょうか、私は家路を急ぎました。

家に着いた頃にはもう星が見えていて、どこの家にも明かりが灯っていて。

家の玄関の前で待っていたお母様に怒られて、そして、抱きしめられた。

そんな…かけがえのない「過去」の記憶です。

でも、これは夢で見た話です。本当にあったことなのでしょうか。

私は自信が持てません。それでも、夢で見たお母様の顔だけは…

それだけは本当だと信じています。

できればこの手紙は、宛名を書いてからお母様に手渡しでお渡しできたらと、

そう願っています。

名前も知らないお母様、どうかお体にお気をつけて。おやすみなさい。


                             草々
                        
                             貴女の娘 ククル

                             1028年 4月 3日  



























森に抱かれて



























私たちの朝は太陽が昇るより早く始まる
起きてすぐ朝の狩り、朝食の調達
森で動物を狩ったり山菜などを採ってきて自分で食べたり
商人さん達に売って、そのお金でアルベルタ沖で捕れた魚を買ったり

モンスターから集めた収集品は意外と高く売れる
中でも「熊の足」は東方では高級な食材らしく
なかなか高く売れるのでいい稼ぎになる
矢の代金も馬鹿にならないので、正直「熊の足」なんていうものを
好んで食べる人種がいることに感謝している
私はもちろん典型的なルーンミッドガルド王国人なので
そんな怪しいものは食べる気にはならない

ちなみに「私たち」というのは、フェイヨン村のとなりにある
通称「弓手村」に住むアーチャーやハンターのことで
村の一部を私たち専用の居住地にさせてもらっている代わりに
森から村へ迷い込んだ動物たちの排除、捕獲を請け負っている

森に住む動物たちはそのほとんどがおとなしい性質だけど、
いくらおとなしくても、大きさが人間の2倍はあろうかという
大きな熊が村に出没するのだから、安心して暮らすには
私たちのようないわゆる「冒険者」のなかで
一箇所に定住している人間も必要なのだろう



午前の狩場は村の東側の近場にすることにした
昨日は南東の熊やエギラと呼ばれる卵みたいなモンスターを狩って
結構いい儲けが出たので、しばらくは生活費に困ることもない
そんな訳で矢の材料になる木屑やスモーキーの毛皮でも集めることにした

ちなみにエギラの殻は、集めてフェイヨンの細工職人に売っている
フェイヨンの民芸品で殻で作った美術品や飾るための食器などが各地で人気があるらしい
でも、最近ずっと殻を集めていたので、契約している職人さんに

「しばらく殻はいらないから。あ、駄洒落じゃないよ、あはははは」

などとくだらない駄洒落を交えて言われてしまったので
しょうがないからしばらくはエギラ狩りはおやすみだ







「ふぅ、結構狩ったなぁ」

朝からずっと狩りをしていたのでかなり収集品は集められた
これなら2週間くらいは狩りをしなくてもいいかもしれない
もちろん、狩人が狩りをしない日なんてほとんどないのだけれど…

「まだ…12時くらいか…」

頭上高くにある太陽を見てそうつぶやいた

「一度戻って、午後は遠出しよう」

お財布も潤っていることだしお昼を何処かに食べにいこう
矢も残り少ないし、どっちにしても戻らなくちゃいけない

「どこで食べようかな…」

午後の予定が決まったのでさっそく帰って用意をすることにした
それにしても、独り言が多くなった気がする
もしかしたら、一人で狩りをすることの多いハンターはみんなそうなのかもしれない
私だけじゃないことを願う









弓手村に戻ってきて、とりあえず自分の部屋に戻った
この部屋は協会から借りているもので、毎月家賃も払っている
といっても、協会のお仕事の手当てから引かれているので
あまり払っているといった感じではない
格安な部屋だけど、その割には綺麗なほうだと思う

集めてきた収集品は明日処理することにして
午後の狩りの準備をすることにした

用意するのは火矢と罠
罠は買い置きがあるからいいとして
火矢は…たしかもう残り少なかったから仕入れないといけない
レッドブラッドも切らしてるし、そもそも今日使うのだから
火矢を製作する時間はない。というよりめんどくさい
少し高くつくけど、しょうがないかな
まとめ買いすれば少しはまけてくれるかもしれないし
とりあえずダンジョン前の露天でも見に行こう







ダンジョン前まで来ると何人か商人さんが露天を開いていた
ちなみに「商人さん」にはブラックスミスやアルケミストも含まれる
火矢、罠、赤ポーションと書かれているのぼりは沢山ある
ここならほとんどいつでも売っているけど、たまに運悪く売ってないときもあるので
あてが外れないでよかった





「まいどありがとう」

さっそく露天商(おじいさんだった)から火矢を売ってもらった
とても人のよさそうなひとで、1000本買うといったら
50本おまけしてくれた

買った矢を部屋に一度置いて、お昼を食べるためにフェイヨン村に出ることにした
協会の食堂でもご飯は一応食べられるけど、本当に一応という感じで
弓手学校の生徒くらいしか利用していない
わざわざ好き好んで食べに行く場所ではなかった
お金があるときくらい美味しいものを食べたい


フェイヨン村に向かう途中ダンジョンの前を通り過ぎると
どこかで聞いたことのある声に呼び止められた

「お〜い、ククル!こっちこっち」

振り返るとちょっとカッコイイ騎士が手を振っていた
無駄に大きな声だったので回りの人たちがみんなこっちを見ている
はずかしい…大声でひとの名前を呼ばないでほしい…

私はすこし小走りにその男のいるところへ急いだ
男の他にもそこには大勢いて、ほとんど男ばかりで女性は二人だけ
私を呼んだ男は、ここにいる男の中では一番端正な顔つきだと思う
顔はいいんだけどね、顔は…

「リオン…大声で人の名前呼ばないでよ」

「奇遇だなぁ、これから狩りか?」

この男…リオンは初めて会ったときから話を聞かない奴だった
いまさら気にしないけど、最初のころは私は怒ってばかりいた
頭変だし話も聞かないし軽いし馬鹿だし…だけど悪い奴じゃない
ちゃんとけじめをつけられる奴なんだってことは知っている

私がここへ来てから3年の間に出会った数少ない弓手以外の友達
私が気兼ねしないで普通に話せるのはリオンくらいかもしれない
言葉遣いを気にしないで済むから話してて楽な相手でもある
過去の記憶がほとんど…名前の記憶しかないことも割とすぐに話した

「そうだけど、あんたはダンジョンに潜るんでしょ?」

「あぁ、今日は仕事でね。まぁいつも仕事だけどな」

「手伝おうか?」

予定は決まってたけど、どうせ1人なのですぐに変えられる
ダンジョンに潜るほうが危険だし、最近潜ってなかったから
もし人手が足りないようだったら手伝ってもいいかなっと思った
もちろん…

「有料だろ?」

「あたりまえ」

こちとら生活がかかってるんだから只働きなんてするわけが無い
国から給料の出る騎士とは違う

「今日は人手は足りてるからな、それに楽な仕事だし」

「そっか、じゃあしかたないね」

「それより、昼飯食べにいこうぜ」

「いいの?打ち合わせでもしてたんじゃ…」

「もう終わった。あ、もちろん割り勘だぞ」

私の「いいの?」という言葉に「奢りで」という言葉が含まれていたことに気づいたみたい

「女の子誘っといて割り勘?相変わらず甲斐性なしね」

別に相変わらずってことはないんだけど
実はお金持ちらしいし

「さて、どこで食べるか」

こいつは都合の悪いことは聞えない耳をもっていて、しかも自分勝手
まぁちょうど食べようと思ってたし
たまには1人じゃないご飯もいいかもしれない

「いいよ、フェイヨン村で食べようと思ってたんだけど…」

「じゃあ米食おう、米」

「あいかわらず好きね」

「プロンテラじゃ食えないからなぁ」

「帰るとき買い込んでいけばいいじゃない」

「米炊くのって難しいんだよ、正直食えたもんじゃなかった」

「たしかに道具がないと難しいかもね、慣れてれば簡単だけど」

「まぁ米は好きだけど、美味しいほうがいいからな」

「じゃあいつものところ行きましょう」

「猫飯亭か、いいぜ」

猫飯亭はフェイヨンではちょっと有名な定食屋で、値段以上の満足感を与えてくれるお店
つまり美味しい定食屋さんで、リオンとはよく行く
ちなみに猫はメニューにない。あっても食べないけど

「最近新メニュー増えたの知ってる?」

「よぉ〜し、じゃあそれ食おう。うまいんだろ?」

「もちろん」

そういうと、リオンはパーティーの人たちの方に振り返って

「俺は別のとこで食ってくるからそのあとまたここに集まろう」

といった。すると、そのなかの一人が

「デートかよ…いいなぁ」

なんてとんでもないことをにやにやしながら口走ったので思わず

「違いますっ!!」

つい大声で叫んでしまった…
はっとして周りを見ると、みんなこっちを見ていた
うぅ…今日は注目されてばっかり
みんな笑ってるし…

「ほら、早く行くっ!」

一刻でも早くここから逃げ出したくなって
リオンの背中を押してフェイヨン村へと急いだ








フェイヨンの西の区画には武器防具屋、精錬所、食料品店、宿屋など
冒険者から地元住民までが活用するお店が集まっている
そしてもちろん食事を摂れるお店も何軒かあって、猫飯亭はそのなかの一つだった

今はお店のカウンター席に二人並んで座って、先月末に新しく加わったメニューを食べている
私はもう一回食べたけど、初めてだったリオンはよほど美味しく見えたのか
すごい速さで一言もしゃべらずご飯を口に運んでいた
これくらい美味しそうに食べてくれるならお店の人も満足だろう
あまり行儀は良いとは言えないけど、これくらいは目をつぶろう

「ふぅ、うまかった〜。お?お前は食わないのか?」

「食べてるじゃない」

「そうか。ずいぶんゆっくり食べるんだな」

「あんたが早すぎなんでしょ」

リオンの食べっぷりを見ていたから、とは言わないでおいた

「そうか?そうかもな」

「先に食べ終わったんだから何か話してよ。食べながら聞くから」

「俺だけしゃべるのかよ」

「相槌くらいうってもいいけど?」

「はいはい、じゃあ耳かっぽじって聞け」

「あ、これおいしい」

「…………まぁいい」

リオンは実は打たれ弱い
自分はいつも話し聞いてないのにちょっとこっちが聞かないとこんな顔になる
いじけたような怒ったような悲しいような、そんなのが混じった顔
この顔は結構気に入ってる
面白いから

「そうだな、じゃあフェイヨンダンジョンの話でもするか」

「私のほうが知ってると思うけど」

「いいから聞けって、ここ何年か月夜花の被害がないっていうのは知ってるよな?
 実はそれがどうしてなのか調べるのが今回の、というよりここ数年のフェイヨン
 派遣の大きな目的なんだが、ほとんど成果はあがってない。というより、結論は最初から
 出てるといえば出てる。つまりは月夜花はもうフェイヨンダンジョンにいないってことだ。
 まぁ当然の結論だな。でもやっぱり俺はいまいち納得できない」

「それなら倒した人がいるはずよね。しかもそれまで何度でも復活してきた月夜花が
 復活できないくらい完璧に倒した人が。世界の一部っていわれているほどのモンスター
 を倒せる人物ってことか…それってやっぱり限られてる、よね」

「あぁ、もちろんそんな人物がわざわざ『月夜花を復活できないくらいに倒した』なんて報告するとは思えない。
 たぶん、高位のプリーストとか、魔術師とか、おそらくそのどっちかか両方かだとは思うんだが。フェイヨンに
 来そうなので何人思い当たる?」

フェイヨンに来そうな、ね。こんな田舎にわざわざ来るのは駆け出しの冒険者と観光目的の人たちくらい
月夜花の現れなくなった今、フェイヨンダンジョンは昔よりずっと安全な場所になっているから、
強い人なら聖職者でもないかぎりそうそう潜る人はいない

「そうね…白銀か黄金か赤か、この三人かな。魔術師は全然知らないから聞かれても困るけど。店員さん、お水ください」

『白銀』は第二王位継承者のレナ姫の教育係、名前は忘れたけど若き天才プリースト
聖職者でありながら「剣」に例えられる人物で、私でも知っている超有名人
性格破綻者という噂もあるけど、まぁもしかしたらそうなのかもしれない

『黄金』は全然知らないけど、生きながらにして伝説になったほどのプリーストで、『白銀』の親族という噂もある
プリーストなら誰でも知っているらしいけど、ハンター一筋の私が知っているわけもない
そもそも男なのか女かすら知らない、だけどいろいろな噂の内容からすると男だとは思う
それくらい強烈な噂ばかりで、女だったら…会ってみたいかもしれない

『赤』は特にフェイヨンではかなり有名な人で、ここだけの話あまり良い噂を聞かない
フェイヨンでは良い噂だけなんだけど、都会の人たちは「フェイヨンの赤い悪魔」という名で知っているらしい。
幸せを運ぶ天使か、災いをもたらす悪魔か、どっちが本当なんだろう
そういえばフェイヨンには「白い悪魔」もいたらしい
フェイヨンには悪魔ばっかりだ

とりあえず私が知ってるフェイヨンに現れそうなプリーストはこの3人くらい
知ってるうちに入らないかもしれない。色は3人の髪の毛の色らしい
有名になると名前で呼ばれなくなるのはどうしてだろう
ちなみにフェイヨンに現れそうなっていうのは出身がフェイヨンっていうことと
フェイヨンにあるローゼリア教会に派遣されていたということ
故郷だったり仕事だったりしないとこんなところまで来たりはしないと思う

「まぁそんなもんだろうな。もう何人かいるけど、どっちにしろ誰もフェイヨンダンジョンに入った
 っていう情報はないし、理由もない。だいたい月夜花より優先すべき敵はいるしな。
 あと赤っていうより紅だな。まぁどっちしろ違うな。こいつは基本的に防御型だ」

月夜花より優先すべき敵…モンスターのほうか、それとも人間のほうか
不可侵条約が結ばれている以上アルナベルツ教国は攻めてこないと思うけど
リオンはあまり信用していないみたい。だけどその理由は国政に疎い私にはわからない

「ふ〜ん。あ、そうだ、シオン=エリム=シュヴェルトライテ、この人は?なんか名前だけ浮かんだ」

どこかで覚えた名前だった
フルネームで覚えてるのに誰だったか思い出せなかった

「…その人は第一騎士団の隊長だ。お前に教えたのは俺。あの人は城からほとんど出ないしな」

なるほど、言われてみればそうだったかもしれない

「結局どうなの?リオンはどう考えてるわけ?あ、お水おかわり」

「結論から言うと、月夜花は消えてない。ここで俺のすばらしい案が出てくるわけだ。
 すなわち、月夜花は人間狩りを止めた。もしくは、休止中。これなら月夜花が存在
 したままで今の状況にちゃんとなるだろ?」

「それこそ、まさかね。今まで散々暴れてたモンスターが人間を狩らなくなる理由なんて想像もつかない。
 休止中にしても、知らないかもしれないけど、もう4年近く休んでることになるし。大体報告書にそんな
 こと書けるの?理由は飽きたから?人間に諭されたとか?」

「それが問題だ。まだ国王かお姫様がお忍びで月夜花を倒したっていうほうが報告書にも書きやすい」

「なにそれ?どうして王様とお姫様が出てくるの?」

「おまえな…本当にこの国の人間か?」

「なによ…ってもしかして『国とは人々そのもので、守るべきは民。王とは前線に立ち、
 民の代わりに血を流すもの』っていうやつ?あれってもしかしてホントなの?」

この言葉は初代ルーンミッドガルド王の言葉で、そのままの意味だけど、もうひとつ意味がある
つまり、先頭に立って戦い、決して死なないこと。つまりこの国の王族は強くなくてはいけない、らしい

「当たり前だろ。今は国王は病気で戦えないが、レナ姫はともかくルミナ姫は相当なものだぞ?」

「前にリオンが言ってたのは、美しすぎて目が眩んでしまうから戦えないってそんな感じだったじゃない」

「あれは冗談だ。ここだけの話、お城の警備が薄いのは王族が襲われたとしてもそのまま簡単にどうにか
 なったりする心配がないからなんだぞ?」

「でも一応警備はしてるんでしょ?」

「そりゃそうだ。襲われること自体は問題だからな」

「ふ〜ん。それに今は王様は病気だからよけいに警備は必要なんだ…」

「って待て!なんで国王が病気だって知ってるんだよ!?」

「…今自分で言ってたじゃない」

「…………しまった」

まったく、ぬけてるというかなんというか
こんなのが第五騎士団副隊長なんてやってるんだから世の中わからない

「秘密にしてるなら黙ってるわ。言いふらしてもいいことないし。ごちそうさまでした〜」

「ホント頼むぜ、少なくとも俺から聞いたとか言うなよ?」

「はいはい、それじゃあごちそうさま」

「ちっ、しょうがねぇなぁ」

結局今日の昼ご飯はリオンの奢りになった
もちろん最初っからどう転んでもそうなる予定だったけど









フェイヨンダンジョン前でリオンと別れ、なんだか気分が乗らなかったので午後は泉で休むことにした
ときどき狩りに出かける気が全くなくなるときがある
もちろん生活に支障をきたすほどの頻度ではないので問題はない
どっちかっていうと特に決めてない休日の変わりみたいなものだから

部屋に寄って上着を取ってきた
まだ森に囲まれているこの場所では肌寒いから、動かないなら上着は必要
聖水を作っているプリーストを横目にいつもの場所に身体を横たえた
この場所なら直射日光も当たらないし、ちょうど枕になる岩もある
私のお気に入りのお昼寝場所だ

村の中なので警戒も全くしなくて済むこの場所は
自分の部屋と同じくらいにゆっくり休むことができた
目を閉じれば本当に静かに揺れる水の音が聞こえる
ずっと遠くからは誰か練習でもしているのか、的に矢の中る音が聞こえてくる
一定のリズムを刻むその音を子守唄に、私は眠りに落ちていった






聴こえるのは家に帰る鳥達の声
水の音はもうなくなっていた
私はゆっくりとまぶたを開いた

辺りはすでに薄暗くなっていて、逆にそれで目が覚めた

「早く帰らないと!」

飛び上がるように身体を起こして、何処に帰ろうとしたのかわからなくなり、それで気がついた

「あ…」

私が帰ろうとしていたのは今住んでいる部屋じゃなかった
そうだ、夢で見た本当の私の…

それで一瞬悲しくなってしまったけど、希望も持てた
きっと私の見る夢は、きっと私の過去に繋がってるって
少なくともそのことに自信を持てる

さぁ帰ろう、今の私の家へ











「ククル、さっきお客さんが来てたよ」

「お客さん?」

協会の宿舎へ戻ると管理人さんがそう告げてきた
管理人さんは手振りで「そこで待ってろ」と告げると管理人室へ一度入り
なにか本のようなものが入った袋を持って出てきた

「これを渡してくれって。なんだろうね?品の良い騎士さまだったから中は確認してないけど」

「はい、大丈夫です。知り合いですから」

「そうかい、じゃあ確かに渡したからね」

私は管理人さんにお礼を言って部屋に戻った
それにしても、「品の良い」っていうのは絶対間違ってる
確かに不特定多数の人間にはそう見えるのかもしれないけど
あいつが品が良いなら、品のない人間なんてこの世に数人しかいない

「とは言ってもね…」

袋を開けると予想通りの物が出てきた
中身は一冊のスケッチブック
画集といったほうが正確かもしれない

プロンテラには冒険者だけではなく、芸術かも数多く集まる
特に絵を描く人たちが多くいる
プロンテラの中央広場では商人たちの露天に混じって
生活費を稼いでいる似顔絵描きもいる

それと、プロンテラの貴族の家は芸術家に支援をしている場合が多い
もしかしたらリオンの家もそういった貴族なのかもしれない
本人に確かめたわけじゃないからわからないけど





「今回は当たりがあるかな」

私は布団の上で画集のページをめくる
フェイヨンにリオンが来るとき、ときどき画集を買ってきてくれる
本人はただの土産だといつもいっているけど
私の「過去探し」に役立つと思って持ってきてくれるんだろう
画集に描かれているのは全部風景画で、レベルの高い作品ばかりだった
その絵を見ればまるで本当にそこに行って、その景色に触れたような
そんな錯覚を覚えるほどに素晴らしい絵ばかり

もしかしたら私の知っている…忘れている風景が描かれているかもしれない
だから私はこうしてリオンのくれる画集を集めている
今回も綺麗な風景ばかりで、最近の私は純粋に絵を楽しむようになってきていた

「ここ行ってみたいな。何処かな、えっと…」

前は見たことがある気がする景色、今では綺麗な景色が描いてあったとき
最後のページにその風景を描いた場所が全部書いてあるので、それをチェックしている

「ミョルニル山脈にて、か。ちょっと遠いなぁ」

こんな風に行きたい場所がだんだんと増えていく
そのうち長旅に出たいとも思うけど、今はここでの生活が結構楽しいから
しばらくはこのままでいいと思う

画集を閉じて枕元に置いて、灯りを消そうとしたとき
日課を忘れていることに気がついた

「危ない危ない」

起き上がって小さな机に向かい、日記を書き始めた
今日見た夢のこと、久しぶりに手がかりになるようなことがあったので
また今日も、お母様への手紙形式で書くことにした
手紙形式だと何故か言葉遣いが丁寧になってしまうけど、
それはそれでちょうどいいかもしれない




「どうかお体にお気をつけて。おやすみなさい。っと」

いつも通りの言葉で締めくくり、自分の名前と日付を書いて
また布団に戻ろうとしたとき、さっきの画集が目にとまった

「一応書いておこうかな、追伸……えっと…」

追伸、と書いてからどう書こうかしばらく悩んだ
結局当り障りのない内容になったけど、伝えたいことは同じだと思う
さて、今度こそ寝ないと
今日も良い夢が見れますように…













追伸

変な友達がいます。変だけど、いいやつです。

できたらお母様に紹介したいと、そう思います。

それでは改めて、おやすみなさい。